医療ビジネス

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マクロチーム医療 製薬メーカーのマーケティングの未来

以前、日本製薬工業会(医薬産業政策研究所)から講演を頼まれチーム医療を絡ませながら製薬メーカーのマーケティングについてお話ししました。それはそうとして、私のようなものでいいのですか?と聞いたくらいにそぐわない、翌月は日経BP社の宮田満さんだったので比較できないし、困惑したのですが、まぁ前座ということで承諾した次第です。

あれからチーム医療は一般的なものになっていき、今更語る人も少なくなってきています。IoTの利用もこれを加速させるものになっています。ただし、当時憂いていた製薬メーカーだけは、そのチームから取り残されたままになっていると感じます。特に、在宅医療の分野は、製薬メーカーにとってカオスの状態にしか見えていません。

病院やクリニックでは、医師、看護師、栄養士、薬剤師などと面談することによって、必要とされているニーズを組み上げて薬剤の立ち位置を再確認する作業ができました。しかしながら、在宅医療では、施設の看護師、訪問看護師など医療スタッフや、実際に薬を飲むときに手伝う介護士などがケアカンファレンスで患者さんのニーズを再確認していく新しい局面のチーム医療には入っていけないのが現状です。

製薬メーカーからの視点で見ると、在宅医療はジェネリック医薬品ばかり使うので、コストパフォーマンスが悪いと見えます。今まで通り、病院、クリニック外来を重点的にプロモーションをしていくべきだとの考え方に落ち着きます。そのためにも高度な医薬品を開発すべく、創薬ベンチャーを買収してコストパフォーマスを上げなければなりません。

ただ、私の考え方は、現在の病院・クリニックの医療現場と在宅医療は、チーム医療というフレームワークで同じ土俵上のものになっていくと予想しています。それはBlockchainのような新しい技術が、より患者を主体にしたものとして生まれてくると予感しています。製薬メーカーは今も、もちろん大事ですが、より広い視野と深い洞察力で、現在開発をしている新薬が世にでる頃の新しいチーム医療(マクロチーム医療とでも言っておきましょう)にどう対応するか考えるべきでしょう。

 

最後に日本製薬工業会で話したサマリーを記しておきます。少し時代が古いのであくまでも参考程度にお読みください。

製薬産業は戦後、国民皆保険、薬価制度という“社会主義経済” のゆりかごの中でぬくぬくと成長してきました。このような状況の中で、患者は消費を注ぎ込まれる“焼却炉”でしかあり得ず、そのためには、手段を選ばない開発、製造、販売、処方が繰り返されてきた事は承知のことです。しかしここへ来て、薬害訴訟、医療費高騰、健保崩壊、と弊害が続々と出てきています。戦後の医療制度は産業界にとっては大変有益な仕組みでありましたが、今は、消費者にとって如何に有益であるかが最優先課題になってきています。もちろんこれは、医療に限らず、土木などに見られる公共事業も同様に見直されてきています。
 では、医療は変化しているのか?医療過誤インフォームドコンセントを背景に医療現場は歩みは遅くとも舵を取り直しているように見受けられますが、こと製薬産業はどうかと見てみると、医療従事者の顔色を見ながらも、基本的な方針は変わっていなのが現状ではないでしょうか?なぜか!それはマーケティングの欠如であると断言できます。今までマーケティングという概念など必要なく、箸にも棒にもかからない薬剤を作っても薬価さえ高価につきさえすれば、売れた時代が長く続いていたのです。そのような経験をした人たちが今、企業の舵取りをしていることに大いに起因しています。

過去の成功体験を大事にするのは、この業界だけではないですが、今、医療の現場(医療従事者、患者)とマーケティングコミュニケーションを行わないと、遅かれ市場から退場しなければならないでしょう。

今回の論理の展開はこうです。 そもそも製薬産業にマーケティングが存在していたのか?なぜ存在しなかったのか?一部分存在していたしたらそれはどこに存在していたのか?なぜ全体として存在できないのか?を追っていきます。この中で、営業現場と、本社組織との乖離が浮き上がってきます。その乖離を埋めようとして本社サイドは、非論理的はプロモーション施策を打ち出し、結果として非効率なプロモーションが生まれてきます。今、現状はどうなっているのか?表面上は非常に良い仕組みが出来つつあるように見受けられるが、それは正解なのか?

その解答を見つけるために、今一度“医療現場”を見てみる必要があるでしょう。その原点として、なぜ薬は必要なのか?を医療という行為から見てみる必要があるでしょう。戦後から振り返ってみると、そこには購買動機の変化が見受けられます。その変化の源泉はなにかを見ていくと、患者が消費者としてマーケットにやっと参入してくる事ができ、結果、医療行為という本質が変化していることに気が付くはずです。このような中で第一消費者としての医療機関の薬剤に関する受け止め方も変化してきているのです。それはなにか?

まさにここに次のマーケティングのあり方が隠されています。購買という行為は医療の世界に限らず、新たな局面を迎えてきてます。早晩、我々の世界も踏み込まなければならない時が来ており、そのために、市場と対話する必要があり、そこから企業としてプロモーションも変化していく必要があります。

我々はまず、この業界でいったいぜんたいマーケティングは存在していたのかどうか検証してみる必要があります。“社会主義経済”の“計画経済”は生産計画があって売上げ計画を立てて、それをはき出すという言ってみればそういう仕組みですが、(だと認識してますが)、これまでの医薬品産業はまさにそうであったと言わざるを得ないでしょう。これに医療従事者が薬価差という医療機関の屋台骨を潤すために、我々の消費に協力を惜しむことなく処方してくれていたという図式が見えます。実際、患者は治療してもらうという弱者であり、この仕組みの掃きだめになっていたことは言い方は悪いですが、外れてはいないでしょう。そういうアプローチから見ると、製薬産業、医療機関ともども、“儲かる”という同じ価値観で進んできたのですから、マーケティングの必要性もなかったと言っても過言ではないでしょう。

しかしながら実際は、個々の医療機関ごと、医療従事者ごとにウォンツは違っており、それを知り得たのは現場のプロパーでした。プロパーの時代は、薬価差はともかく、ゴルフのお供ができるか?酒の相手ができるか?という点も重要なウォンツであったはずです。そういう意味では現代風に言えば、one to one の仕組みがすでに存在していたはずです。ところが、優秀な営業マンが本社機構に転勤になった途端、全体としてのウォンツが見えなくなります。当たり前の事で、現場で一切仕切っていたからに他なりませんし、トータルのウォンツを見る必要もないわけです。が、やはり職務として何かをせねば!とやおらSFAやらを始めたわけです。これが大いに現場と本社との不信感を芽生えさせていきます

では、薬剤に関する情報はアクセスできているのか?これが問題です。 今、医療従事者向けのwebサイトや患者向けのサイトや、コールセンターなど全体としての仕組みは出来つつあるようです。しかし、これが本当に正解かどうか、今一度、“医療現場”とはなにか?を見てみる必要があります。

そもそも“治療”するという行為はなにか?です。人は誰でも一生、健康でありたいと思うのは当然であり、不幸にも病にかかったとしても如何に回復させるか?回復が困難ならどのような生活をしていけば良いかを必死になって考える訳です。今までは、お医者さんにかかって言われるようにしていた訳ですが、現在では自分で情報を集めて、より良い選択枝を選ぶようになってきています。

当然ながら、医療機関側も薬価差に頼らず、また医療過誤などを起こさず、患者にとってより良い医療サービスを提供していかなければならなくなってきました。この変化の源はいろいろあるでしょうが、本質的には“情報の非対称性”がなくなってきたことにあります。書籍あり、テレビあり、そしてインターネットです。もちろんトリガーとしては、薬害問題に端を発していると考えられます。そして医療機関は“儲ける”ためではなく“治療する”ために様々な情報を集める訳です。端的に言えば、治療は”高度に情報が集められた結果“として認識されるわけです。

レビットの言うところの「1/4インチドリルが売れたのは、人々が1/4インチドリルを欲したのではなく、1/4インチの穴が欲しかったからだ」というマーケティングの本質に近づいた訳です。つまり、薬剤が欲しいのではなく、治療がしたいからだという当たり前の行為に変わりつつあるという事です。

では、医療現場は情報を取ることはできるのか?否です。社会は、より細分化されたライフスタイルが定着してきて、そのためにそれを補うための製品、サービスも多様化してきています。さらに、一生に間にもさまざまなライフスタイルの変化を求めるようになり、私たちは、所有する無駄を廃するようになってきています。これは個人生活に限ったことではなく、企業もアウトソーシングやリースに見られるように自己所有から脱却しつつあります。私たちは物事を決定する場合、様々なソースから情報を入手し、一番、自分にとって都合の良い方法を選択できるようになりました。音楽はCDさえも買わずにダウンロードする、家も購入するのではなく賃貸で済ます。この背景には、必要なものは必要なときに好きな所からチョイスし、必要なくなれば手放せるというネットワークが発達したからに他なりません。

当然、医療という行為もネットワーク上で必要な情報を収集し治療を行い、必要なくなったらログアウトするという姿に変わっていくと考えられます。そうなると我々医薬品産業は、まず情報を売るというスタイルに極端ですが、そうなると考えても良く、結果として“物としての薬剤”が供給される図式が当たり前になってくるかもしれません。そういう意味では、医療現場が欲している情報に、医療現場がいつでもアクセスできる環境を整える必要があるでしょう。当然、プロモーションも「治療のためのこういう情報を提供できます」というスタイルに変わってくる可能性があります。そのためにも、今、医療現場治療の為にどのような情報を欲しているのか、知る必要があり、そのためにマーケティングコミュニケーションが急務です。

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