医療ビジネス

医療系、健康系のアプリケーションは今後注目株です。開発、マーケティングのアドバイスはお任せください。ご連絡、お待ちしております。医療や介護の諸問題についても解説します。講演の依頼もお受けしております。

スラム街 IoTの進む中で見逃してはいけない問題

国連2030年には全世界の人口80億人のうち50億人が都市部に住んでいると推計しています。都市化はアフリカを中心に急速に進んでいますが、これに伴ってスラム街が増殖しており、都市部の人口の62%がスラム街に住んでいるそうです。

 

スラム街が増殖しているにもかかわらず、スラム街の健康に関しての研究はあまりないようです。都市全体の健康を研究していて、スラム街だけの健康調査は、進んでいないということです。

 

ご存知のようにスラム街は、衛生状態、水、電気、廃棄物処理など都市部と全く違う特徴を持っています。これらの環境がスラム街の住民の健康に与える影響・メカニズムは「 neighbourhood effects」と呼ばれています。APHRCの研究によると子供の死亡率は非スラム街より高いですが、さらに農村部よりも高いそうです。

 

ランセットの論文では、スラム街と非スラム街との調査を分ける必要があると言っています。

 

THE LANCET

The Health of people who live in slums

 

11の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goal Eleven)では、私たちはスラム街をよく理解していかなければならないとしています。

 

今、私たちを取り巻くHelathcare movementIoTAIなど明るい話題を取り上げがちですが、世界の多くでまだまだ研究が遅れていることを認識しなければならないことを示唆しています。感染症にしても、多くの問題を提示してくると思います。

 

参考ページ

http://www.thelancet.com/series/slum-health

 

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ヒューマンエラー 使いやすいシステム・アプリへのヒント

最近、同じような事故が2件あって非常に関連性が高いのでそこから何を洞察したら良いのかを考えてみたいと思います。一つは11月26日にコロンビアでブラジルのプロサッカー選手を乗せたチャーター機が墜落した事故です。先日、調査委員会が人為的ミスが重なったと中間報告を発表しました。もう一つは、12月26日に名古屋大学病院で、画像診断の結果に注意がいかず、ごく初期の肺がんを見落とし、3年後に肺がんで患者を死亡させた事故です。大学は情報共有の仕組みを強化していくと述べています。

 

それぞれの詳細は各種記事などを参照してもらうとして、どちらもヒューマンエラーであることは明白です。これらのヒューマンエラーに対する研究は航空機事故の多発以来広く行われてきています。特に、スリーマイル島原子力発電所 の事故以来、航空機と原子力におけるヒューマンエラーの研究が盛んのようです。

 

あまり知られていませんが、東京電力の子会社である(株)TEPCOシステムズが航空機事故を元に原子力発電所のヒューマンエラーをなくす研究をしていました。さらに、医療事故への応用も研究していて、私も何回か当社の研究室へ訪れて色々教えていただきました。東京電力の人とは、東日本大震災以来全く連絡が取れなくなって、半年ほど前に一度電話をいただきましたが、当研究が続いているのかどうかは不明です。

 

さてここからが本題です。以前、Scienceに興味深い研究が掲載されました。(Divided Representation of Concurrent Goals in the Human Frontal Lobes)簡単に説明すると、人間の脳はマルチタスクができない、デュアルタスクが限界であるという研究です。私たちは普段で道を歩いていても、つまずいたり、人と接触したりと、果ては、駅のホームから落ちたりと安全の面でどうも怪しい行動をしてしまいます。よく、注意散漫であるとか、スマホをいじっていたからだろうとか、どうも注意不足で片付けてしまいがちですが、歩くという行為とぶつからないための観察という行為だけでデュアルタスクになってしまい、これに考え事という新たななタスクが入ると、どれかが充分機能しないことになります。歩くという単純な行為でされ、これですから、複雑な作業や複雑な判断は人間の脳には処理できないのは明白です。さらに先の研究では、日頃から複雑な処理をしている人の方が、していない人に比べて、様々な環境的刺激を受けやすく、全般の処理能力が落ちるという結果を出しています。

 

名古屋大学病院の話に戻ります。大学病院の医師は、数百人の患者を診ています。診察時などはその患者のことに集中していますが、それでも看護師や生検や薬剤部などから随時相談・連絡を受けています。一つのことに集中していても、環境はマルチタスキングを要求することになります。「情報共有の仕組みを強化していく」というコメントを発表していますが、逆にマルチタスクを増大させかねません。あえてここは、人間の脳の処理能力に合わせて情報を提供できるかが必要です。

 

システムやアプリケーションを開発する上でもよく考えなければならないということは以上のことでよくわかると思います。画面いっぱいに多くの情報を表示させて、人間の判断を仰ぐのは非常に危険です。いかに人間の脳の処理に合わせたインターフェースを作るかが鍵です。そのようなシステムやアプリケーションは「使いやすい」とことになり、ヒューマンエラーを減少させることができるはずです。

 

Scienceの論文はこちらです。

 

 

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マクロチーム医療 製薬メーカーのマーケティングの未来

以前、日本製薬工業会(医薬産業政策研究所)から講演を頼まれチーム医療を絡ませながら製薬メーカーのマーケティングについてお話ししました。それはそうとして、私のようなものでいいのですか?と聞いたくらいにそぐわない、翌月は日経BP社の宮田満さんだったので比較できないし、困惑したのですが、まぁ前座ということで承諾した次第です。

あれからチーム医療は一般的なものになっていき、今更語る人も少なくなってきています。IoTの利用もこれを加速させるものになっています。ただし、当時憂いていた製薬メーカーだけは、そのチームから取り残されたままになっていると感じます。特に、在宅医療の分野は、製薬メーカーにとってカオスの状態にしか見えていません。

病院やクリニックでは、医師、看護師、栄養士、薬剤師などと面談することによって、必要とされているニーズを組み上げて薬剤の立ち位置を再確認する作業ができました。しかしながら、在宅医療では、施設の看護師、訪問看護師など医療スタッフや、実際に薬を飲むときに手伝う介護士などがケアカンファレンスで患者さんのニーズを再確認していく新しい局面のチーム医療には入っていけないのが現状です。

製薬メーカーからの視点で見ると、在宅医療はジェネリック医薬品ばかり使うので、コストパフォーマンスが悪いと見えます。今まで通り、病院、クリニック外来を重点的にプロモーションをしていくべきだとの考え方に落ち着きます。そのためにも高度な医薬品を開発すべく、創薬ベンチャーを買収してコストパフォーマスを上げなければなりません。

ただ、私の考え方は、現在の病院・クリニックの医療現場と在宅医療は、チーム医療というフレームワークで同じ土俵上のものになっていくと予想しています。それはBlockchainのような新しい技術が、より患者を主体にしたものとして生まれてくると予感しています。製薬メーカーは今も、もちろん大事ですが、より広い視野と深い洞察力で、現在開発をしている新薬が世にでる頃の新しいチーム医療(マクロチーム医療とでも言っておきましょう)にどう対応するか考えるべきでしょう。

 

最後に日本製薬工業会で話したサマリーを記しておきます。少し時代が古いのであくまでも参考程度にお読みください。

製薬産業は戦後、国民皆保険、薬価制度という“社会主義経済” のゆりかごの中でぬくぬくと成長してきました。このような状況の中で、患者は消費を注ぎ込まれる“焼却炉”でしかあり得ず、そのためには、手段を選ばない開発、製造、販売、処方が繰り返されてきた事は承知のことです。しかしここへ来て、薬害訴訟、医療費高騰、健保崩壊、と弊害が続々と出てきています。戦後の医療制度は産業界にとっては大変有益な仕組みでありましたが、今は、消費者にとって如何に有益であるかが最優先課題になってきています。もちろんこれは、医療に限らず、土木などに見られる公共事業も同様に見直されてきています。
 では、医療は変化しているのか?医療過誤インフォームドコンセントを背景に医療現場は歩みは遅くとも舵を取り直しているように見受けられますが、こと製薬産業はどうかと見てみると、医療従事者の顔色を見ながらも、基本的な方針は変わっていなのが現状ではないでしょうか?なぜか!それはマーケティングの欠如であると断言できます。今までマーケティングという概念など必要なく、箸にも棒にもかからない薬剤を作っても薬価さえ高価につきさえすれば、売れた時代が長く続いていたのです。そのような経験をした人たちが今、企業の舵取りをしていることに大いに起因しています。

過去の成功体験を大事にするのは、この業界だけではないですが、今、医療の現場(医療従事者、患者)とマーケティングコミュニケーションを行わないと、遅かれ市場から退場しなければならないでしょう。

今回の論理の展開はこうです。 そもそも製薬産業にマーケティングが存在していたのか?なぜ存在しなかったのか?一部分存在していたしたらそれはどこに存在していたのか?なぜ全体として存在できないのか?を追っていきます。この中で、営業現場と、本社組織との乖離が浮き上がってきます。その乖離を埋めようとして本社サイドは、非論理的はプロモーション施策を打ち出し、結果として非効率なプロモーションが生まれてきます。今、現状はどうなっているのか?表面上は非常に良い仕組みが出来つつあるように見受けられるが、それは正解なのか?

その解答を見つけるために、今一度“医療現場”を見てみる必要があるでしょう。その原点として、なぜ薬は必要なのか?を医療という行為から見てみる必要があるでしょう。戦後から振り返ってみると、そこには購買動機の変化が見受けられます。その変化の源泉はなにかを見ていくと、患者が消費者としてマーケットにやっと参入してくる事ができ、結果、医療行為という本質が変化していることに気が付くはずです。このような中で第一消費者としての医療機関の薬剤に関する受け止め方も変化してきているのです。それはなにか?

まさにここに次のマーケティングのあり方が隠されています。購買という行為は医療の世界に限らず、新たな局面を迎えてきてます。早晩、我々の世界も踏み込まなければならない時が来ており、そのために、市場と対話する必要があり、そこから企業としてプロモーションも変化していく必要があります。

我々はまず、この業界でいったいぜんたいマーケティングは存在していたのかどうか検証してみる必要があります。“社会主義経済”の“計画経済”は生産計画があって売上げ計画を立てて、それをはき出すという言ってみればそういう仕組みですが、(だと認識してますが)、これまでの医薬品産業はまさにそうであったと言わざるを得ないでしょう。これに医療従事者が薬価差という医療機関の屋台骨を潤すために、我々の消費に協力を惜しむことなく処方してくれていたという図式が見えます。実際、患者は治療してもらうという弱者であり、この仕組みの掃きだめになっていたことは言い方は悪いですが、外れてはいないでしょう。そういうアプローチから見ると、製薬産業、医療機関ともども、“儲かる”という同じ価値観で進んできたのですから、マーケティングの必要性もなかったと言っても過言ではないでしょう。

しかしながら実際は、個々の医療機関ごと、医療従事者ごとにウォンツは違っており、それを知り得たのは現場のプロパーでした。プロパーの時代は、薬価差はともかく、ゴルフのお供ができるか?酒の相手ができるか?という点も重要なウォンツであったはずです。そういう意味では現代風に言えば、one to one の仕組みがすでに存在していたはずです。ところが、優秀な営業マンが本社機構に転勤になった途端、全体としてのウォンツが見えなくなります。当たり前の事で、現場で一切仕切っていたからに他なりませんし、トータルのウォンツを見る必要もないわけです。が、やはり職務として何かをせねば!とやおらSFAやらを始めたわけです。これが大いに現場と本社との不信感を芽生えさせていきます

では、薬剤に関する情報はアクセスできているのか?これが問題です。 今、医療従事者向けのwebサイトや患者向けのサイトや、コールセンターなど全体としての仕組みは出来つつあるようです。しかし、これが本当に正解かどうか、今一度、“医療現場”とはなにか?を見てみる必要があります。

そもそも“治療”するという行為はなにか?です。人は誰でも一生、健康でありたいと思うのは当然であり、不幸にも病にかかったとしても如何に回復させるか?回復が困難ならどのような生活をしていけば良いかを必死になって考える訳です。今までは、お医者さんにかかって言われるようにしていた訳ですが、現在では自分で情報を集めて、より良い選択枝を選ぶようになってきています。

当然ながら、医療機関側も薬価差に頼らず、また医療過誤などを起こさず、患者にとってより良い医療サービスを提供していかなければならなくなってきました。この変化の源はいろいろあるでしょうが、本質的には“情報の非対称性”がなくなってきたことにあります。書籍あり、テレビあり、そしてインターネットです。もちろんトリガーとしては、薬害問題に端を発していると考えられます。そして医療機関は“儲ける”ためではなく“治療する”ために様々な情報を集める訳です。端的に言えば、治療は”高度に情報が集められた結果“として認識されるわけです。

レビットの言うところの「1/4インチドリルが売れたのは、人々が1/4インチドリルを欲したのではなく、1/4インチの穴が欲しかったからだ」というマーケティングの本質に近づいた訳です。つまり、薬剤が欲しいのではなく、治療がしたいからだという当たり前の行為に変わりつつあるという事です。

では、医療現場は情報を取ることはできるのか?否です。社会は、より細分化されたライフスタイルが定着してきて、そのためにそれを補うための製品、サービスも多様化してきています。さらに、一生に間にもさまざまなライフスタイルの変化を求めるようになり、私たちは、所有する無駄を廃するようになってきています。これは個人生活に限ったことではなく、企業もアウトソーシングやリースに見られるように自己所有から脱却しつつあります。私たちは物事を決定する場合、様々なソースから情報を入手し、一番、自分にとって都合の良い方法を選択できるようになりました。音楽はCDさえも買わずにダウンロードする、家も購入するのではなく賃貸で済ます。この背景には、必要なものは必要なときに好きな所からチョイスし、必要なくなれば手放せるというネットワークが発達したからに他なりません。

当然、医療という行為もネットワーク上で必要な情報を収集し治療を行い、必要なくなったらログアウトするという姿に変わっていくと考えられます。そうなると我々医薬品産業は、まず情報を売るというスタイルに極端ですが、そうなると考えても良く、結果として“物としての薬剤”が供給される図式が当たり前になってくるかもしれません。そういう意味では、医療現場が欲している情報に、医療現場がいつでもアクセスできる環境を整える必要があるでしょう。当然、プロモーションも「治療のためのこういう情報を提供できます」というスタイルに変わってくる可能性があります。そのためにも、今、医療現場治療の為にどのような情報を欲しているのか、知る必要があり、そのためにマーケティングコミュニケーションが急務です。

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医師のフラットなネットワーク

ある大学医学部の医局が医局員に、バイトを辞めるか?医局をやめるか?を迫っています。医局は今や崩壊の危機に立っています。教授という役職の権力はほぼなくなりつつあり、各大学はいかに学生たちに人気のある医師を教授に迎えるかに苦心しています。

 

先のバイトを辞めるか?医局にやめるか?という方針もいわば危険が賭けと言わざると得ません。仮にバイトをしている医師が医局に戻ると、クリニックは医局になびくことになります。そのことによって医局はそのクリニックを配下に収めることができ、臨床研究においてもクリニックに依頼しやすくなります。しかし、これは医局側の誤ったロジックです。

 

クリニック側にすれば、すでにフラットなネットワークができています。これもSNSの発達が大きな要因になっているでしょうし、研修医制度において他大学の医師との交流も増えています。仮にバイトしている医師が医局に戻ったとしても、ネットワークを使って別の医師を探すことは難しいことではなくなっています。

 

昔、初対面同士の医師は、出身大学、卒年、指導教授を自己紹介することで、そこに2人の上下関係を確認しあうというなんとも一般の人にとっては滑稽なことがまかり通っていましたが、今や、出身大学などで上下関係を云々するようなことはほぼなくなったのではないかと思います。もちろん、年齢や貢献度など一般でも当然なマナーもありますし、それ以上に年齢に関係なく、お互いの仕事に対してリスペクトしています。

 

さらに言えば、自分自身がどれだけ魅力のある人間かが重要であり、そうでなければ自らのネットワークは広げられないことになります。

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医療IT化はなぜ進まないのか? 第2弾 ITリテラシーの相違

以前から医療ビジネスの相談を受けた時によく言うのですが、医療機関の職員は医師、看護師、事務員に至るまでITリテラシーが低いことに気をつける必要があります。これは決してITの能力が低いと言うわけではありません。PCなどを使う必要のない仕事が多いので使わないだけということです。

 

一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会の調べでは、2015年の資料として、診療所では電子カルテ導入率は3%、一般的な中小病院では50%、となっており、未だアナログでやっているところが多いのが現状です。

 

前回の投稿でも述べましたが、電子カルテを導入するには、それなりの規模を必要とし、仮に導入したら、導入コストを上回る、人的・時間的メリットがないとできません。

 

また、基本的に医師の診療、看護師の処置などはアナログな仕事です。これをITが代わりに行うと言うのはまだ先の話です。ですので、彼らの仕事に直接PCは必要ないと言うことです。必要がなければ、キーボードに触れることもないですから覚える機会はありません。個人的にfacebookinstagramをやる場合ですも日本は今やiPhoneに代表されるスマホです。キーボードとは無縁です。

 

そのようなわけで、導入理由がなかなか見つけられないのが事実です。私が以前関わっていたクリニックでは、5年前まで完全に紙カルテでした。院長がレセプトのPCを導入したいと言った時、事務職員は総出で大反対でした。大人になってPCを覚えなければならないと言うのが相当苦痛のようでした。お一人はそれで退職されました。結局、導入しましたが、今はそれが普通のように使っています。

 

しかし、レセプトは一つのソフトウェアであって、PC全般を使うこととは縁遠いです。院内に掲示する案内を作るにしてもwordの使い方が分からないので、一日がかりです。これでは、コストパフォーマンスが悪すぎます。

 

一般企業でしたら、すでに先輩社員がwordexcelpowerpointを使っているので分からないところがあればすぐに教えてもらえる環境がありますが、クリニックや中小病院では、知っている人が少ない、また、使う機会が少ないので上達は難しくなります。

 

これは、医療機関に限ったことではないようです。

The Distribution of Users’ Computer Skills: Worse Than You Think

先進33カ国の中で日本のPCスキルは最低のようです。日本ではiモードのように携帯電話でのコミュニケーション手段が異常に発達したからではないかと推察します。

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だからと言って、医療のIT化が絶望的かと言うと、そうでもないでしょう。何せ日本人は習得する能力は秀でていると思います。いざ、やらなければならないとなると、頑張って習得するでしょう。民間企業が医療・介護のIoTビジネス化を進めるにあたって、この最初の障壁をいかに低くするかが問題です。

一般企業の人が、PCが使えるからと言って、同じような使い方ができるとゆめゆめ思わないように。

 

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祝開設20周年 抗菌薬インターネットブック

 「抗菌薬インターネットブック」という日本で処方されている抗菌薬のインターネット上のデータベースです。これを公開したのは、1996年の12月でした。つまり、公開から20年も経ちました。私が最初に手掛けたwebサイトです。

抗菌薬インターネットブック

 

 公開からすぐに大きな反響を呼びました。医学系の雑誌に寄稿を頼まれたり、大学での講演を依頼されたり、さらに、科学技術庁の「科学者が見るべき100のホームページ」という冊子に薬に関しては唯一紹介されたました。

 

 この「抗菌薬インターネットブック」はもともと、世界保健通信社に「抗菌薬ハンドブック」として大野竜三先生の著書がありました。そして、世界保健通信社は当時の田辺製薬株式会社の抗生物質の担当部署に関係していました。1995年に抗生物質の製品担当者から本を改訂しなければならないのだけれども、予算が少ないのでどうしたらいいだろう?という相談を受けました。(私も田辺製薬に在籍していました)そこで、まだ一般的ではなかったwebサイトで公開したらどうだろうか?webサイトなら書籍と違って、いつでも修正が可能なので予算も圧縮できる。そのような案が社内で煮詰まり、企画書を持って、当時浜松医科大学の教授だった大野先生に面会に行きました。大野先生は、それは面白いとすぐに許可していただきました。1995年の終わり頃だっと記憶しています。(大野竜三先生は、現在、愛知県がんセンター名誉総長)

 

 それからがイバラの道でした。まだ、webサイトを作れる会社が少なく、春頃までデザイン会社と議論を進めました。さらに、複合検索という機能をつける目玉企画がありました。患者さんから採取した血液から特定の菌を特定したら、その菌をどのように投与するか、どの部位に到達させるか、など複合的に条件を入れて最適な薬剤を結果として表示させるというものです。当時、すでにoracleデータベースが商品としてありましたが、大変高価でこれを導入する予算はなかったのです。

 

 そこで、ある一定の条件下で絞り込まれる薬剤をリストにして、一つ一つ静的なページを作成してそのページを表示されるという「なんちゃってデータベース」を作りました。この作業が非常に時間を食ったのを覚えています。(現在は薬剤特性検索という名称になっていますし、SQLデータベースが動いているようです)

 

 さらにデザイン会社が出してきたhtmlファイルがとてもいい加減だったことがあります。デザイン会社の人の立場に立てば、非常にわかりづらい薬剤の名前は間違えても間違いに気づかないということがあり、結局、同僚の友人と二人で、htmlの作り方を勉強して全てのhtmlファイルを書き直しました。当時は、ホームページを作成するソフトなどなく、全てテキストエディターで書きました。

 

一方、各薬剤に関するページを大野先生は一人で延々と書かれました。当然、内容に関しては大野先生が全責任を負わられているので、その執念は相当のものでしたでしょう。

 

 そうして、199612月に公開に至りました。あれから20年、サポートは、田辺製薬・グラクソから大日本住友製薬に引き継がれ、度々改訂を重ねて今でも抗生物質を調べる時のトップ1を維持しています。さらに薬剤のインターネットデータベースは今でさえこれだけのはずです。それほど、制作とメンテナンスは難しいということです。

 

 昨今、DeNAWelqに見られるような、一般の人をカモにするような医療健康情報がgoogleの検索上位を占めているのを見ると情けなく感じます。本当に正しい医療情報を届けるのは血の滲むような努力が必要なのです。そして、20年トップを走って来られたのも、その内容の信頼度だからだと自負しています。

 

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こちらもお読みください

ScienceMagazineのローカライズができるまで

 

 

EBHとは evidence based health

 EBHは目新しい言葉ではありませんが、ここにきて注目を集めています。簡単にいうと、「健康であるための証拠」、言い換えれば、「どのような生活をすれば健康でいられるか」ということになります。以前の投稿でEBMについて触れましたが、EBHが遅れた原因はevidenceを集める手法が確立していなかったことによります。ところがここ数年、個人がiPhoneApple Watchに代表される、生体情報を収集するデバイスが一般化しつつあり、これを使ってデータ収集してevidenceを確立していこうという動きになっています。

 

 このEBHを使って、医療費の削減に取り組んでいる国は意外にも厚生労働省ではなく経済産業省です。経済産業省商務情報政策局に「健康投資ワーキンググループ」というのがあるようです。このワーキンググループでは、特に糖尿病に関して具体的な施策を出しています。下図の通り、従来のターゲットは今まで述べてきた健常者に対して、啓蒙やデバイスの活用を行ってきたようですが、急激な医療費の高騰に対して、すでに糖尿病になっている人に対してこれらの人々の重症化を防ごうとするものです。これらは、今まで、医療機関に頼っていた部分ですが、これに対して経済産業省は、民間の力を使って医療費削減に取り組もうとしています。民間とは健康保険組合やIoTの中心になるIT企業などです。もちろん、すでに医療機関にかかっている人が対象ですから医療者も入ってきます。

 

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 さて、以前の投稿にも書きましたが、医療機関は保険で回収できるものに対しては投資はしますが、それ以外は基本的には消極的です。そのため、国費を使って医療機関にインセンティブを与えなければ協力はなかなか難しいと考えます。できるなら、以前の健常者に対してのアプローチを一般企業はターゲットとした方が事業計画は立てやすいと思います。

 

 ここで、今までのターゲットがうまくいかない原因として私が挙げるとしたら、それは「正常性バイアス(normalcy bias)」ではないかと考えます。多くのサラリーマンは朝から満員電車に揉まれて出勤し激務をこなしています。まだまだ元気だと思うのはごく自然です。健康診断で中性脂肪が増えても、血糖値が上がっていても、少し運動でもするか、とか食べ過ぎには気をつけようとか思うわけですが、まだまだ自分は元気だし、入院するほど悪くなるはずはないと思ってしまいます。実は確実に体は蝕まれているのですが、このような都合の悪い情報には目を背けてしまう、これが正常性バイアスです。

 

 そして、いよいよ糖尿病が悪化して薬を飲まなければならなくなる、インスリンを打たなければならなくなるという段になっては、実は物事を正常に判断する能力が失われつつあります。管理栄養士といつも話していて聞かされるのは、「懇切丁寧に説明しても、よく理解しているように感じない」ということです。

 

 ですので、緊急に医療費を削減するには、すでに医療費を使われている患者さんをターゲットとしてプロジェクトを進める必要がありますが、長い目で見て、医療費を必要とする人を増やさないというプロジェクトも必要です。その上でも、一般企業が取り組むのは健常者に対してです。

 

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